9月21日(土)七つ橋渡り

浅ノ川の市街地に架かる橋は日没とともにライトアップされ、幻想的な光が川面に映える。だが、深夜になると明かりが消え、闇の世界が訪れる。「七つ橋渡り」はそんな時間からひっそりと始める。この習俗は七つの橋を渡れば願いが成就できるとされ、春、秋の彼岸、大晦日の深夜などに行われる。梅の橋から始まり、浅野川大橋、中の橋、小橋、彦三大橋、昌永橋と下流へ進み、中島大橋で終わる。所要時間は約一時間。それぞれの橋の前では数珠を手に合掌し「渡らせていただきます」と心の中で唱える。橋の選び方は人によって多少異なるが、この習俗に共通するのは、歩いている最中は無言で、決して後ろを振り返らないことである。「七つ橋渡り」は浅野川に橋が増えた明治以降に定着したとみられるが、発祥の時期は定かではない。願掛けの場は普通なら神社や寺であろう。それが浅野川で「橋渡り」という形をとって現れるのはなぜか。各橋の間隔が犀川ほど長くなく、七つをめぐる距離、時間が歩くのに適しているという理由だけではない。浅野川の深夜の流れと、そこに架かる個性的な橋のたたずまい。その中に人々の心を吸い寄せる信仰的な力が宿っているのは間違いない。(「おとこ川おんな川」北國新聞社刊より)

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